PORT! #3レポート /この1冊は外せない!デジタル制作現場を支えるカルチャー本

Goodpatch Inc.さんとCINRA, Inc.によるPORT! #3 /この1冊は外せない!デジタル制作現場を支えるカルチャー本のレポートです。

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CINRA, Inc.主催の「PORT!」は、デザイン、エンジニアリング、編集など様々なジャンルの第一線で活躍するコンテンツ制作者、クリエイターらを招いて、“知識”や“知恵”をシェアするセミナーイベント。そのVol.3が7月20日(水)行われました。

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過去の「PORT!」では、Webデザインやエンジニアリングなど、主にWeb制作現場の技術的な視点をメインにクリエイティブを解体してきましたが、第3回で「PORT!」がテーマに据えたのは……なんと“本”! 『PORT!#3/この1冊は外せない!デジタル制作現場を支えるカルチャー本』と題された今回は、クリエイター陣が読んできた本を紹介し、それらの本が、どのように彼らのクリエイティブやモチベーションに影響を与え、仕事のヒントとなっていったかを紹介しました。

今回のお相手は、利用者数500万人を超える国内最大のチケット売買アプリ『チケットキャンプ』、集中力を測れるアプリ『JINS MEME OFFICE』などの数々のサービスのデザインに携わり、日本でいち早くUIデザインにフォーカスしてきたGoodpatch Inc.。両社から3人ずつが登壇し、いくつかのテーマに沿ってそれぞれが1冊ずつ選んだ本と、そこから得られた見地についてトークを繰り広げていきました。登壇メンバーが選んできたコンテンツは書籍だけに収まらず、漫画や雑誌、映画、アニメなど幅広いジャンルが登場していたのも、それぞれの会社のクリエイティブの特色を表していて面白い試みに。

本の紹介のはずが「ジャポニカ自由帳」!?自己紹介から波乱の展開に

最初のお題は、登壇メンバーの自己紹介を兼ねた「自分の仕事スタイルを作ってゆく上で影響を受けた1冊」。まずはCINRAサイドから、ディレクターの伊藤亜莉(以下、伊藤(亜))が『男の作法』(池波正太郎)、エンジニアの伊藤悠太(以下、伊藤(悠))が雑誌『SPECTATOR』、エディターの竹中万季(以下、竹中)が『あなたを選んでくれるもの』(ミランダ・ジュライ)を紹介しました。

伊藤(亜):私が人生の師と仰ぐ作家が、様々な場面で昭和の大人の男の作法を説いた本。仕事ではいつも、池波正太郎を思い出して「男らしく行こう!」をモットーにしています。

伊藤(悠):『SPECTATOR』は、まだネットのない時代、僕が高校2年くらいに創刊されて衝撃を受けました。「こんな世界があるのか!」と目を開かせられた、開放的な情報を扱うジャンルレスな姿勢は自分の礎になっています。

竹中:『あなたを選んでくれるもの』は、ミランダ・ジュライが映画の脚本に行き詰まったときにフリーペーパーに売買広告を出す人々に会いに行ったドキュメンタリーをまとめた本。PCを使わない場所にこそ、面白い情報やストーリーがあると実感させられた、ネット大好きな人にこそ読んで欲しいです。

続いてはGoodpatchサイドから、取締役 デザインDivゼネラルマネージャーの村越悟(以下、村越)さんは『写真よ、さようなら』(森山大道)、UIデザイナーの森田望(以下、森田)さんは『哀しい予感』(吉本ばなな)を、そしてプロジェクトマネージャーの徐福健安(以下、徐福)さんはなんと……ジャポニカ学習帳の『じゆうちょう』を紹介! 意外なチョイスに会場も沸きました。

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村越:森山大道は写真家でありながら、「写真」とは、「写真を撮影する行為そのものが写真」なのか、「現像を通じて、プリントされたものを写真」というのか、という問いを考え抜いた結果、写真が全く撮れなくなる時期を過ごした人。そこから、一見誰もが常識として疑わずに透明化している行動や思考も立ち止まって考えることでいろいろな視点を得ることができるということを学び、ぼくのものの考え方の原点になった本です。彼が同じく写真家の中平卓馬らと興していた雑誌『プロヴォーク』も、東京都写真美術館までよく読みに行きます。

森田:中学時代に出会った『哀しい予感』は、イレギュラーなことばかりが起こる小説。その後の私の経歴、人生にもイレギュラーが多数起こりましたが、この本のおかげで今ではイレギュラーを楽しめています。

徐福:小学生で『じゆうちょう』を買ったことがない人はいないはず。フォーマットだらけのジャポニカ学習帳の中でも、自分で自由にフォーマットを作れる『じゆうちょう』は衝撃的だった。型にはまらない仕事をする、という自分のポリシーに影響を与えた1冊です。

さらに、前職ではお笑い芸人、お笑いライブの構成作家をしていたという徐福さんは、参加者を巻き込んで「いい拍手」の練習も敢行。軽妙な話術で会場を沸かせていました。

カルチャーが仕事に与える影響とは……?Goodpatch、CINRAそれぞれの仕事の仕方

続いての本セレクトのテーマは、CINRA、Goodpatchそれぞれの制作フローにまつわる本。両社の仕事内容に加えて、各チームがどのようにプロジェクトを進めているのかを紹介し、ワークフローのポイント、そのポイントでの考え方に役立つ本が紹介されました。

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先攻はCINRAチーム。CINRAのワークフローのポイントは、「企画作り」、「コンペ/プレゼンの仕方」、「Web開発」、「コンテンツ制作」の4点。「企画作り」の観点から伊藤(亜)が選んだのはCINRA社内でも大ブームを呼んだという映画『はじまりのうた』。さらに「コンペ/プレゼンの仕方」視点からは、少女漫画の『おはよう姫子』(藤原栄子)が紹介された。

伊藤(亜):『はじまりのうた』は、優れた才能のシンガー・ソングライターとプロデューサーが、パートナーとして工夫しながらCDを作っていく映画。CINRAは、様々なバックグラウンドを持つ社員の集まり。それぞれの得意なものを受け入れあいながらものづくりをする姿勢は、我々の企画立案に近しいと思います。そして『おはよう姫子』は、主人公・姫子の性格がとても天真爛漫。コンペではクライアントに対して、姫子の物語のように、ストレートにワンメッセージを伝えることが重要だと思って日々やっています。

そして「Web開発」の視点からは伊藤(悠)が『超整理術』(佐藤可士和)を、「コンテンツ制作」視点からは、竹中が雑誌『BRUTUS』をチョイスしました。

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伊藤(悠):『超整理術』はクライアントや同僚との会話でこんがらがった頭を、フラットに立ち返らせるときに読む本。本の中で佐藤可士和さんは、“デザインの答えはクライアントの中にある。整理して答えを引き出すのが第一”とおっしゃっている。クライアントさんが求めているものは、「ユーザーストーリー」。そこをエンジニアが逆算していくべきだという認識を、この本で再確認できます。

竹中:コンテンツ作りの参考にしているのは、『BRUTUS』や『STUDIO VOICE』のような特集主義の雑誌。いかに新しい切り口を見つけられるかというのは編集者に必要な要素の一つだと思っていますが、紙の雑誌はとても勉強になります。限られた時間の中でジャンル問わずたくさんの雑誌を読みたいので、月額制で雑誌が読み放題の「dマガジン」はオススメです!

対するGoodpatchの制作ワークフローのポイントは、「組織作り、チーム作り」「UXを立てる(リサーチ・交渉・ディスカッション)」「UIを作る(デザイン・ユーザーテスト・ユーザーヒアリング)」「リリース後(運用・改善・コミュニケーション)」の4点。「組織作り、チーム作り」にインスパイアを与える本として村越さんが選んだのは、こちらも本ではなく……アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズだった。

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村越:僕が理想にしているチームは、アニメ『攻殻機動隊』の主役・公安9課。『~STAND ALONE COMPLEX』に出てくる、荒巻課長の「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレイから生じる、チームワークだけだ」という言葉が、理想のチームを体現している。高いプロフェッショナリズムを持つ個人が、同じ目標に向かって自立して動く、機動性のあるチームを目指したい。そのようにチームメンバーにも言っています。

続いては「UXを立てる(リサーチ・交渉・ディスカッション)」について。徐福さんは、またもユニークな発想でゲーム『逆転裁判』をチョイス!

徐福:UXを立てる場合に重要なのは、クライアントと密に且つフラットな関係を築きながら、できるだけ多くの情報を集めること。仕事を抜きにした雑談すら大事で、整理を始めるのはその後のこと。方法も『逆転裁判』の有名な台詞「待った!」の精神で、泥臭く、パッションで聞きまくるしかない、聞くことで、同時にチームビルディングも成立していくんです。

泥臭く集めてきた情報は、「UIを作る(デザイン・ユーザーテスト・ユーザーヒアリング)」のプロセスに引き渡されます。そこで森田さんがインスパイアを受ける本として選んだのは、漫画『GOGOモンスター』(松本大洋)。さらに森田さんは、「リリース後(運用・改善・コミュニケーション)」でももう1冊、漫画『ハッピーマニア』(安野モヨコ)をチョイスしました。

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森田:デザイナーに共通して必要なのは感性、センスを磨くこと。私たちの仕事はデジタルですが、デジタルだからこそデザインには五感の手触りが必要です。『GOGOモンスター』は小学生の視点から描かれた“感じる漫画”。ちょっと高価な本ですが、とてもおすすめです。そして、運用にまつわる本に選ばせてもらったのは『ハッピーマニア』。主人公は一貫して「彼氏が欲しい」女性で、「彼氏が欲しい」というコンセプトをしっかり持ったままトライ&エラー、仮説検証を繰り返しているんです。サービスの運用は長期になればなるほど、恋愛と同じで強いコンセプトとビジョン、エネルギーがいるもの。『ハッピーマニア』からエネルギーをもらってください。

個性豊かなメンバーをまとめるときに読みたい本は?

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両社の制作フローとの関わりを通じて、プロセスごとにクリエイティブの源泉となった本を紹介するコーナーのあとは、ふたつの共通テーマに基づいて参考にした本を各社1冊ずつセレクトし、代表者がプレゼンテーションしました。ひとつめのテーマは「強いチームを作るときに読みたい1冊」。CINRAの伊藤(亜)が選んだのは『木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』(西岡常一)。対するGoodpatchの徐福さんが選んだのは『ワン・シング 一点集中がもたらす驚きの効果』(ゲアリー・ケラー)だ。

伊藤(亜):『木に学べ』は、最後の宮大工と呼ばれる法隆寺、薬師寺の宮大工棟梁・西岡常一さんのインタビュー本。木はどうしたって曲がるもの。その木を組むときは、癖に応じて適材適所で組み合わせれば、より強くなるといったような、個性豊かな人材が揃ったCINRAのチーム作りに役立つ名言がたくさんある。今日、Goodpatchさんの話を聞いていても、「よく曲がってるなー」と思いました(笑)。

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徐福:『ワン・シング』の内容はとてもシンプルです。自分にできるひとつのことをしよう、これさえやっていれば大丈夫だと信じられるひとつに向かっていけば、それがパフォーマンスを生むという考え方。チーム作りの最大のストレスは、自分たちがどこに向かっているか分からない状況。大小問わず、常にプロジェクトのゴールと、それが達成できているかを明確にすることを、プロジェクトマネージャーとして心掛けています。その考えを分かりやすくこの本が説いています。急に真面目な話になってすみません(笑)。

ふたつめのテーマは、「未来を先読みしたいときに読みたい1冊」。その問いにCINRAの伊藤(悠)は『日本の伝統』(岡本太郎)、Goodpatchの村越さんは漫画『火の鳥2・未来編』(手塚治虫)をチョイスした。

伊藤(悠):岡本太郎には多くの名言があり、この本にも法隆寺の火災に際して「法隆寺は焼けてけっこう」、「自分が法隆寺になればいい」と言ってます。未来と聞くと“先”をフォーカスしがちですが、未来は、今目の前で起きていることへの対峙と、過去に何が起きていたかという、自分のスケール感と対比した伝統から生まれてくる。他にも龍安寺の石庭でのエピソードなど、物事の本質に立ち返ることができる面白い話がたくさん出てきます。

村越:僕が好きな言葉に、最初に紹介した雑誌『プロヴォーク』界隈の言葉で「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」があります。未来を考えるとき、僕は必ず過去を見るようにしている。その意味で、テクノロジーを失った人間を描いた『火の鳥2・未来編』はよく読みます。GoodpatchもデジタルプロダクトのUIデザインが事業の中心なので、そういう意味ではテクノロジーに依った会社ですが、テクノロジーは必ず陳腐化する。フォーカスされるべきは人間で、人間をよく観察し、理解することを大事にしたいということを、この本から再認識します。

様々なジャンルから、2社のクリエイティブに対する考えを支える本やコンテンツが明らかになった『PORT!#3/この1冊は外せない!デジタル制作現場を支えるカルチャー本』。約1時間半におよぶCINRAとGoodpatchという個性的な2社のクリエイティブに対する心構えやチーム作りの根本を知ることのできる貴重な機会に。仕事の内容は違えど、両社に似た考え方が息づいていることも再認識させられるイベントとなった。

(文:阿部美香)

NEXT EVENTPORT! VOL.6

PORT!#6/【開発担当者向け】KAI-YOU.net vs CINRA.NET カルチャーメディアの裏側お見せします!

2017/03/01(水) 19:30 〜

KAI-YOU Inc. 神戸恵介(キャベツこうべ) ,CINRA, Inc. 濱田智

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